、実《げ》に幾許《いかばかり》大いなる者ならん。
「さあ、早く帰れ!」
「もう二度と私はお目には掛りませんから、今日のところはどうとも堪忍して、打《ぶ》つなり、殴《たた》くなり貫一さんの勝手にして、さうして少小《すこし》でも機嫌《きげん》を直して、私のお詑《わび》に来た訳を聞いて下さい」
「ええ、煩《うるさ》い!」
「それぢや打つとも殴くともして……」
身悶《みもだえ》して宮の縋《すが》るを、
「そんな事で俺《おれ》の胸が霽《は》れると思つてゐるか、殺しても慊《あきた》らんのだ」
「ええ、殺れても可い! 殺して下さい。私は、貫一さん、殺して貰ひたい、さあ、殺して下さい、死んで了つた方が可いのですから」
「自分で死ね!」
彼は自ら手を下《くだ》して、この身を殺すさへ屑《いさぎよ》からずとまでに己《おのれ》を鄙《いやし》むなるか、余に辛《つら》しと宮は唇《くちびる》を咬《か》みぬ。
「死ね、死ね。お前も一旦棄てた男なら、今更|見《みつ》とも無い態《ざま》を為ずに何為《なぜ》死ぬまで立派に棄て通さんのだ」
「私は始から貴方を棄てる気などは有りはしません。それだから篤《とつく》りとお話を為
前へ
次へ
全708ページ中517ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング