ひれふ》しぬ。
「豊、豊!」と老婢を呼ぶ声|劇《はげし》く縁続《えんつづき》の子亭《はなれ》より聞《きこ》ゆれば、直《ぢき》に走り行く足音の響きしが、やがて返し来《きた》れる老婢は客間に顕《あらは》れぬ。宮は未だ頭《かしら》を挙げずゐたり。可憐《しをらし》き束髪の頸元深《えりもとふか》く、黄蘖染《おうばくぞめ》の半衿《はんえり》に紋御召《もんおめし》の二枚袷《にまいあはせ》を重ねたる衣紋《えもん》の綾《あや》先《ま》づ謂はんやう無く、肩状《かたつき》優《やさし》う内俯《うつふ》したる脊《そびら》に金茶地《きんちやぢ》の東綴《あづまつづれ》の帯高く、勝色裏《かついろうら》の敷乱《しきみだ》れつつ、白羽二重《しろはぶたへ》のハンカチイフに涙を掩《おほ》へる指に赤く、白く指環《リング》の玉を耀《かがやか》したる、殆《ほとん》ど物語の画をも看《み》るらん心地して、この美き人の身の上に何事の起りけると、豊は可恐《おそろし》きやうにも覚ゆるぞかし。
「あの、申上げますが、主人は病中の事でございますもので、唯今|生憎《あいにく》と急に気分が悪くなりましたので、相済みませんで御座いますが中座を致しまし
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