た。恐入りますで御座いますが、どうぞ今日《こんにち》はこれで御立帰《おたちかへり》を願ひますで御座います」
 面《おもて》を抑へたるままに宮は涙を啜《すす》りて、
「ああ、さやうで御座いますか」
「折角お出《いで》のところを誠にどうもお気毒さまで御座います」
「唯今|些《ちよつ》と支度を致しますから、もう少々置いて戴《いただ》きますよ」
「さあさあ、貴方《あなた》御遠慮無く御寛《ごゆるり》と遊ばしまし。又何だか降出して参りまして、今日《こんにち》はいつそお寒過ぎますで御座います」
 彼の起ちし迹《あと》に宮は身支度を為るにもあらで、始て甦《よみがへ》りたる人の唯在るが如くに打沈みてぞゐたる。やや久《ひさし》かるに客の起たんとする模様あらねば、老婢は又|出来《いできた》れり。宮はその時|遽《にはか》に身※[#「※」は「(尸+巾)+又」、353−11]《みづくろい》して、
「それではお暇《いとま》を致します。些《ちよつ》と御挨拶だけ致して参りたいのですから、何方《どちら》にお寝《よ》つてお在《いで》ですか……」
「はい、あの何でございます、どうぞもうおかまひ無く……」
「いいえ、御挨拶だけ
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