筆でも、あれをすつかり見て下すつたら、些《ちつ》とはお腹立も直らうかと、自分では思ふのです。色々お詑《わび》は為る意《つもり》でも、かうしてお目に掛つて見ると、面目《めんぼく》が無いやら、悲いやらで、何|一語《ひとこと》も言へないのですけれど、貫一さん、とても私は来られる筈《はず》でない処へかうして来たのには、死ぬほどの覚悟をしたのと思つて下さいまし」
「それがどう為たのだ」
「さうまで覚悟をして、是非お話を為たい事が有るのですから、御迷惑でもどうぞ、どうぞ、貫一さん、ともかくも聞いて下さいまし」
 涙ながらに手を※[#「※」は「てへん+主」、352−3]《つか》へて、吾が足下《あしもと》に額叩《ぬかづ》く宮を、何為らんとやうに打見遣りたる貫一は、
「六年|前《ぜん》の一月十七日、あの時を覚えてゐるか」
「…………」
「さあ、どうか」
「私は忘れは為ません」
「うむ、あの時の貫一の心持を今日お前が思知るのだ」
「堪忍して下さい」
 唯《と》見る間に出行《いでゆ》く貫一、咄嗟《あなや》、紙門《ふすま》は鉄壁よりも堅く閉《た》てられたり。宮はその心に張充《はりつ》めし望を失ひてはたと領伏《
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