の二度なるよりはこの三度《みたび》に及べるを、径廷《をこがまし》くも廻らぬ筆の力などを以《も》て、旧《むかし》に返し得べき未練の吾に在りとや想へる、愚なる精衛の来《きた》りて大海《だいかい》を填《うづ》めんとするやと、却《かへ》りて頑《かたくな》に自ら守らんとも為なり。
さりとも知らぬ宮は蟻《あり》の思を運ぶに似たる片便《かたたより》も、行くべき方には音づるるを、さてかの人の如何《いか》に見るらん、書綴《かきつづ》れる吾誠《わがまこと》の千に一つも通ずる事あらば、掛けても願へる一筋《ひとすぢ》の緒《いとぐち》ともなりなんと、人目あらぬ折毎には必ず筆採《ふでと》りて、その限無き思《おもひ》を写してぞ止まざりし。
唯継は近頃彼の専《もつぱ》ら手習すと聞きて、その善き行《おこなひ》を感ずる余《あまり》に、良き墨、良き筆、良き硯《すずり》、良き手本まで自ら求め来ては、この難有《ありがた》き心掛の妻に遣《おく》りぬ。宮はそれ等を汚《けがら》はしとて一切用ること無く、後には夫の机にだに向はずなりけり。かく怠らず綴《つづ》られし文は、又|六日《むゆか》を経て貫一の許《もと》に送られぬ。彼は四度《
前へ
次へ
全708ページ中503ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング