世上の恋なる者を疑ひ、かつ渾《すべ》てこれを斥《しりぞ》けぬ。されどもその一旦の憤《いきどほり》は、これを斥けしが為に消ゆるにもあらずして、その必ず得べかりし物を失へるに似たる怏々《おうおう》は、吾心を食尽《はみつく》し、終《つひ》に吾身を斃《たふ》すにあらざれば、得やは去るまじき悪霊《あくりよう》の如く執念《しゆうね》く吾を苦むるなり。かかれば何事にも楽むを知らざりし心の今日|偶《たまた》ま人の相悦《あひよろこ》ぶを見て、又|躬《みづから》も怡《よろこ》びつつ、楽《たのし》の影を追ふらんやうなりしは何の故ならん。よし吾は宮の愛ならずとも、これに易ふる者を得て、とかくはこの心を慰めしむ可きや。
 彼はいよいよ思廻《おもひめぐら》せり。
 宮はこの日頃吾に篤からざりしを悔いて、その悔を表せんには、何等の事を成さんも唯吾|命《めい》のままならんとぞ言来《いひこ》したる。吾はその悔の為にはかの憤《いきどほり》を忘るべきか、任他《さはれ》吾恋の旧《むかし》に復《かへ》りて再び完《まつた》かるを得るにあらず、彼の悔は彼の悔のみ、吾が失意の恨は終に吾が失意の恨なるのみ。この恨は富山に数倍せる富に因
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