言つてをつたその人だ」
はやその言《ことば》の中《うち》に彼の心は急に傷《いた》みぬ。己《おのれ》の敬愛せる荒尾譲介の窮して戚々《せきせき》たらず、天命を楽むと言ひしは、真に義の為に功名を擲《なげう》ち、恩の為に富貴を顧ざりし故《ゆゑ》にあらずや。彼の貧きは万々人の富めるに優《まさ》れり。君子なる吾友《わがとも》よ。さしも潔き志を抱《いだ》ける者にして、その酬らるる薄倖《はつこう》の彼の如く甚《はなはだし》く酷なるを念ひて、貫一は漫《そぞ》ろ涙の沸く目を閉ぢたり。
第 五 章
遽《にはか》に千葉に行く事有りて、貫一は午後五時の本所《ほんじよ》発を期して車を飛せしに、咄嗟《あなや》、一歩の時を遅れて、二時間|後《のち》の次回を待つべき倒懸《とうけん》の難に遭《あ》へるなり。彼は悄々《すごすご》停車場前の休憇処に入《い》りて奥の一間なる縞毛布《しまケット》の上に温茶《ぬるちや》を啜《すす》りたりしが、門《かど》を出づる折受取りし三通の郵書の鞄《かばん》に打込みしままなるを、この時|取出《とりいだ》せば、中に一通の M., Shigis――と裏書せるが在り。
「ええ、又|寄
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