て」
 固《もと》より留《とどま》らざるべき荒尾は終《つひ》に行かんとしつつ、
「間、貴様は……」
「…………」
「…………」
 彼は唇《くちびる》の寒かるべきを思ひて、空《むなし》く鬱抑《うつよく》して帰り去れり。その言はざりし語《ことば》は直《ただち》に貫一が胸に響きて、彼は人の去《い》にける迹《あと》も、なほ聴くに苦《くるし》き面《おもて》を得挙《えあ》げざりけり。

     (四) の 三

 程も有らずラムプは点《とも》されて、止《た》だ在りけるままに竦《すく》みゐたる彼の傍《かたはら》に置るるとともに、その光に照さるる満枝の姿は、更に粧《よそほひ》をも加へけんやうに怪《け》しからず妖艶《あでやか》に、宛然《さながら》色香《いろか》を擅《ほしいまま》にせる牡丹《ぼたん》の枝を咲撓《さきたわ》めたる風情《ふぜい》にて、彼は親しげに座を進めつ。
「間《はざま》さん、貴方《あなた》どうあそばして、非常にお鬱《ふさ》ぎ遊ばしてゐらつしやるぢや御座いませんか」
 貫一は怠《たゆ》くも纔《わづか》に目を移して、
「一体貴方はどうして荒尾を御存じなのですか」
「私よりは、貴方があの方の御
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