朋友《ごほうゆう》でゐらつしやるとは、実に私意外で御座いますわ」
「貴方はどうして御存じなのです」
「まあ債務者のやうな者なので御座います」
「債務者? 荒尾が? 貴方の?」
「私が直接に関係した訳ぢや御座いませんのですけれど」
「はあ、さうして額《たか》は若干《どれほど》なのですか」
「三千円ばかりでございますの」
「三千円? それでその直接の貸主《かしぬし》と謂《い》ふのは何処《どこ》の誰ですか」
 満枝は彼の遽《にはか》に捩向《ねぢむ》きて膝《ひざ》の前《すす》むをさへ覚えざらんとするを見て、歪《ゆが》むる口角《くちもと》に笑《ゑみ》を忍びつ、
「貴方は実に現金でゐらつしやるのね。御自分のお聴になりたい事は熱心にお成りで、平生《へいぜい》私がお話でも致すと、全《まる》で取合つても下さいませんのですもの」
「まあ可いです」
「些《ちよつ》とも可い事はございません」
「うう、さうすると直接の貸主と謂ふのが有るのですね」
「存じません」
「お話し下さいな、様子に由つてはその金は私から弁償しやうとも思ふのですから」
「私貴方からは戴きません」
「上げるのではない、弁償するのです」
「いい
前へ 次へ
全708ページ中484ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング