満枝は彼に耻《は》ぢよとばかり嗤笑《あざわら》ひぬ。さ知つたる荒尾は飽くまで真顔を作りて、
「本当とも! 実際|那奴《あやつ》※[#「※」は「石+欠」、330−7]却《たたきき》つて了はうと思うた」
「然しお考へ遊ばしたで御座いませう」
「まあその辺ぢや。あれでも犬猫ぢやなし、斬捨てにもなるまい」
「まあ、怖《こは》い事ぢや御座いませんか。私《わたくし》なぞは滅多に伺ふ訳には参りませんで御座いますね」
そは誰《た》が事を言ふならんとやうに、荒尾は頂《うなじ》を反《そら》して噪《ののめ》き笑ひぬ。
「僕が美人を斬るか、その目で僕が殺さるるか。どれ帰つて、刀でも拭《ふ》いて置かう」
「荒尾君、夕飯《ゆふめし》の支度が出来たさうだから、食べて行つてくれ給へ」
「それは折角ぢやが、盗泉の水は飲まんて」
「まあ貴方、私お給仕を勤めます。さあ、まあお下にゐらしつて」
満枝は荒尾の立てる脚下《あしもと》に褥《しとね》を推付《おしつ》けて、実《げ》に還さじと主《あるじ》にも劣らず最惜《いとをし》む様なり。
「全で御夫婦のやうじやね。これは好一対じや」
「そのお意《つもり》で、どうぞお席にゐらしつ
前へ
次へ
全708ページ中482ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング