には顕《あらは》れけん、と打駭《うちおどろ》ける主《あるじ》よりも、荒尾が心の中こそ更に匹《たぐ》ふべくもあらざるなりけれ。いでや、彼は窘《くるし》みてその長き髯《ひげ》をば痛《したたか》に拈《ひね》りつ。されど狼狽《うろた》へたりと見られんは口惜《くちを》しとやうに、遽《にはか》にその手を胸高《むなたか》に拱《こまぬ》きて、動かざること山の如しと打控《うちひか》へたる様《さま》も、自《おのづか》らわざとらしくて、また見好《みよ》げにはあらざりき。
満枝は先《ま》づ主《あるじ》に挨拶《あいさつ》して、さて荒尾に向ひては一際《ひときは》礼を重く、しかも躬《みづから》は手の動き、目の視《み》るまで、専《もつぱ》ら貴婦人の如く振舞ひつつ、笑《ゑ》むともあらず面《おもて》を和《やはら》げて姑《しばら》く辞《ことば》を出《いだ》さず。荒尾はこの際なかなか黙するに堪《た》へずして、
「これは不思議な所で! 成程間とは御懇意かな」
「君はどうして此方《こちら》を識《し》つてゐるのだ」
左瞻右視《とみかうみ》して貫一は呆《あき》るるのみなり。
「そりや少し識つてをる。然し、長居はお邪魔ぢやらう、大
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