に足らんけれど、一婦人《いつぷじん》の為に発狂したその根性を、彼の友《フレンド》として僕が慙《は》ぢざるを得んのじや。間、君は盗人《ぬすと》と言れたぞ。罪人と言《いは》れたぞ、狂人と言れたぞ。少しは腹を立てい! 腹を立てて僕を打つとも蹴《け》るとも為て見い!」
 彼は自ら言《いは》ひ、自ら憤り、尚《なほ》自ら打ちも蹴《けり》も為《せ》んずる色を作《な》して速々《そくそく》答を貫一に逼《せま》れり。
「腹は立たん!」
「腹は立たん? それぢや君は自身に盗人《ぬすと》とも、罪人とも……」
「狂人とも思つてゐる。一婦人の為に発狂したのは、君に対して実に面目《めんぼく》無いけれど、既に発狂して了《しま》つたのだから、どうも今更為やうが無い。折角ぢやあるけれど、このまま棄置いてくれ給へ」
 貫一は纔《わづか》にかく言ひて已《や》みぬ。
「さうか。それぢや君は不正な金銭《マネエ》で慰められてをるのか」
「未だ慰められてはをらん」
「何日《いつ》慰めらるるのか」
「解らん」
「さうして君は妻君を娶《もら》うたか」
「娶はん」
「何故《なぜ》娶はんのか、かうして家を構へてをるのに独身ぢや不都合ぢやらう
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