べ》ての力であるか知らんけれど、人たる者は悪事を行つてをつて、一刻でも安楽に居らるるものではないのじや。それとも、君は怡然《いぜん》として楽んでをるか。長閑《のどか》な日に花の盛《さかり》を眺むるやうな気持で催促に行つたり、差押《さしおさへ》を為たりしてをるか。どうかい、間」
彼は愈《いよい》よ口を閉ぢたり。
「恐くじや。さう云ふ気持の事は、この幾年間に一日でも有りはせんのぢやらう。君の顔色《がんしよく》を見い! 全《まる》で罪人じやぞ。獄中に居る者の面《つら》じや」
別人と見るまでに彼の浅ましく瘁《やつ》れたる面《おもて》を矚《まも》りて、譲介は涙の落つるを覚えず。
「間、何で僕が泣くか、君は知つてをるか。今の間ぢや知らんぢやらう。幾多《いくら》貨《かね》を殖《こしら》へたところで、君はその分では到底慰めらるる事はありはせん。病が有るからと謂うて毒を飲んで、その病が痊《なほ》るぢやらうか。君はあたかも薬を飲む事を知らんやうなものじやぞ。僕の友《フレンド》であつた間はそんな痴漢《たはけ》ぢやなかつた、して見りや発狂したのじや。発狂してからに馬鹿な事を為居《しを》る奴は尤《とが》むる
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