情|若《もし》くは秘密とも謂ふべき者ありながら、幸《さいはひ》に他の穿鑿《せんさく》を免れて、瞹眛《あいまい》の裏《うち》に葬られ畢《をは》んぬる例《ためし》尠《すくな》からず。二代の鰐淵なる間の家のこの一件もまた貫一と彼との外に洩《も》れざるを得たり。
かくして今は鰐淵の手代ならぬ三番町の間は、その向に有数の名を成して、外には善く貸し、善く歛《をさ》むれども、内には事足る老婢《ろうひ》を役《つか》ひて、僅《わづか》に自炊ならざる男世帯《をとこせたい》を張りて、なほも奢《おご》らず、楽まず、心は昔日《きのふ》の手代にして、趣は失意の書生の如く依然たる変物《へんぶつ》の名を失はでゐたり。
出《い》でてはさすがに労《つか》れて日暮に帰り来にける貫一は、彼の常として、吾家《わがいへ》ながら人気無き居間の内を、旅の木蔭にも休《やすら》へる想しつつ、稍《やや》興冷めて坐りも遣《や》らず、物の悲き夕《ゆふべ》を特《こと》に独《ひとり》の感じゐれば、老婢はラムプを持ち来《きた》りて、
「今日《こんにち》三時頃でございました、お客様が見えまして、明日《みようにち》又今頃来るから、是非内に居てくれる
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