》えし婢《をんな》は、覚えず主《あるじ》の気色《けしき》を異《あやし》みつつ、
「あの、御本家の奥様がお出《い》で遊ばしました」
第 四 章
主《あるじ》夫婦を併《あは》せて焼亡《しようぼう》せし鰐淵《わにぶち》が居宅は、さるほど貫一の手に頼《よ》りてその跡に改築せられぬ、有形《ありがた》よりは小体《こてい》に、質素を旨としたれど専《もつぱ》ら旧《さき》の構造を摸《うつ》して差《たが》はざらんと勉《つと》めしに似たり。
間貫一と陶札を掲げて、彼はこの新宅の主《あるじ》になれるなり。家督たるべき直道は如何《いか》にせし。彼は始よりこの不義の遺産に手をも触れざらんと誓ひ、かつこれを貫一に与へて、その物は正業の資たれ。その人は改善の人たれと冀《こひねがひ》しを、貫一は今この家の主《ぬし》となれるに、なほ先代の志を飜《ひるがへ》さずして、益《ますま》す盛《さかん》に例の貪《むさぼり》を営むなりき。然《しか》れば彼と貫一との今日《こんにち》の関繋《かんけい》は如何《いか》なるものならん。絶えてこれを知る者あらず。凡《およ》そ人生|箇々《ここ》の裏面には必ず如此《かくのごと》き内
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