く帰る、お前待つてゐるか」
「私は何時《いつ》でも待つてをりますぢや御座いませんか」
「これは冷淡でない!」
漸《やうや》く唯継の立起《たちあが》れば、宮は外套《がいとう》を着せ掛けて、不取敢《とりあへず》彼に握手を求めぬ。こは決《け》して宮の冷淡ならざるを証するに足らざるなり、故《ゆゑ》は、この女夫《めをと》の出入《しゆつにゆう》に握手するは、夫の始より命じて習せし躾《しつけ》なるをや。
(三) の 二
夫を玄関に送り出《い》でし宮は、やがて氷の窖《あなぐら》などに入《い》るらん想《おもひ》しつつ、是非無き歩《あゆみ》を運びて居間に還《かへ》りぬ。彼はその夫と偕《とも》に在るを謂《い》はんやう無き累《わづらひ》と為《す》なれど、又その独《ひとり》を守りてこの家に処《おか》るるをも堪《た》へ難く悒《いぶせ》きものに思へるなり。必《かならず》しも力《つと》むるとにはあらねど、夫の前には自《おのづか》ら気の張ありて、とにかくにさるべくは振舞へど恣《ほしいま》まなる身一箇《みひとつ》となれば、遽《にはか》に慵《ものう》く打労《うちつか》れて、心は整へん術《すべ》も知らず紊《
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