男の袂《たもと》を執りて泣きぬ。理切《ことわりせ》めて荒尾もその手を払ひかねつつ、吾ならぬ愁に胸塞《むねふさが》れて、実《げ》にもと覚ゆる宮が衰容《やつれすがた》に眼《まなこ》を凝《こら》しゐたり。
「荒尾さん、こんなに思つて私は悔悟してをるのぢやございませんか、昔の宮だと思召して頼《たのみ》に成つて下さいまし。どうぞ、荒尾さん、どうぞ、さあ、お誨《をし》へなすつて下さいまし」
涙に昏《く》れてその語《ことば》は能くも聞えず、階子下《はしごした》の物音は膳運《ぜんはこ》び出《い》づるなるべし。
果して人の入来《いりき》て、夕餉《ゆふげ》の設《まうけ》すとて少時《しばし》紛《まぎら》されし後、二人は謂《い》ふべからざる佗《わびし》き無言の中に相対《あひたい》するのみなりしを、荒尾は始て高く咳《しはぶ》きつ。
「貴方の言るる事は能《よ》う解つてをる、決して無理とは思はんです。如何《いか》にも貴方に誨へて上げたい、誨へて貴方の身の立つやうな処置で有るなら、誨へて上げんぢやないです。けれどもじや、それが誨へて上げられんのは、僕が貴方であつたらかう為ると云ふ考量《かんがへ》に止《とどま》るの
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