出《いで》あそばしまし」
「いんや、宜《よろし》い、大丈夫。時に間はその後どうしましたか」
宮は胸先《むなさき》を刃《やいば》の透《とほ》るやうに覚《おぼ》ゆるなりき。
「その事に就きまして色々お話も致したいので御座います」
「然し、どうしてゐますか、無事ですか」
「はい……」
「決して、無事ぢやない筈《はず》です」
生きたる心地もせずして宮の慙《は》ぢ慄《をのの》ける傍《かたはら》に、車夫は見苦《みぐるし》からぬ一台の辻車《つじぐるま》を伴ひ来《きた》れり。漸《やうや》く面《おもて》を挙《あぐ》れば、いつ又寄りしとも知らぬ人立《ひとたち》を、可忌《いまはし》くも巡査の怪みて近《ちかづ》くなり。
第 二 章
鬚深《ひげふか》き横面《よこづら》に貼薬《はりくすり》したる荒尾譲介《あらおじようすけ》は既に蒼《あを》く酔醒《ゑひさ》めて、煌々《こうこう》たる空気ラムプの前に襞※[#「※」は「ころもへん+責」、294−12]《ひだ》もあらぬ袴《はかま》の膝《ひざ》を丈六《じようろく》に組みて、接待莨《せつたいたばこ》の葉巻を燻《くゆ》しつつ意気|粛《おごそか》に、打萎《うち
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