《やぐら》に打俯《うちふ》しぬ。
柱に身を倚せて、斜《ななめ》に内を窺ひつつ貫一は眉《まゆ》を顰《ひそ》めて思惑《おもひまど》へり。
彼は如何《いか》なる事ありてさばかり案じ煩《わづら》ふならん。さばかり案じ煩ふべき事を如何なれば我に明さざるならん。その故《ゆゑ》のあるべく覚えざるとともに、案じ煩ふ事のあるべきをも彼は信じ得ざるなりけり。
かく又案じ煩へる彼の面《おもて》も自《おのづか》ら俯《うつむ》きぬ。問はずして知るべきにあらずと思定《おもひさだ》めて、再び内を差覗《さしのぞ》きけるに、宮は猶打俯してゐたり。何時《いつ》か落ちけむ、蒔絵《まきゑ》の櫛《くし》の零《こぼ》れたるも知らで。
人の気勢《けはひ》に驚きて宮の振仰ぐ時、貫一は既にその傍《かたはら》に在り。彼は慌《あわ》てて思頽《おもひくづを》るる気色《けしき》を蔽《おほ》はんとしたるが如し。
「ああ、吃驚《びつくら》した。何時《いつ》御帰んなすつて」
「今帰つたの」
「さう。些《ちつと》も知らなかつた」
宮はおのれの顔の頻《しきり》に眺めらるるを眩《まば》ゆがりて、
「何をそんなに視《み》るの、可厭《いや》、私は」
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