多く眠らずなりてよりは、好みてこの一間に入《い》りて、深く物思ふなりけり。両親《ふたおや》は仔細《しさい》を知れるにや、この様子をば怪まんともせで、唯彼の為《な》すままに委《まか》せたり。
この日貫一は授業|始《はじめ》の式のみにて早く帰来《かへりき》にけるが、下《した》座敷には誰《たれ》も見えで、火燵《こたつ》の間に宮の咳《しはぶ》く声して、後は静に、我が帰りしを知らざるよと思ひければ、忍足に窺寄《うかがひよ》りぬ。襖《ふすま》の僅《わづか》に啓《あ》きたる隙《ひま》より差覗《さしのぞ》けば、宮は火燵に倚《よ》りて硝子《ガラス》障子を眺《なが》めては俯目《ふしめ》になり、又胸痛きやうに仰ぎては太息吐《ためいきつ》きて、忽《たちま》ち物の音を聞澄すが如く、美き目を瞠《みは》るは、何をか思凝《おもひこら》すなるべし。人の窺《うかが》ふと知らねば、彼は口もて訴ふるばかりに心の苦悶《くもん》をその状《かたち》に顕《あらは》して憚《はばか》らざるなり。
貫一は異《あやし》みつつも息を潜めて、猶《なほ》彼の為《せ》んやうを見んとしたり。宮は少時《しばし》ありて火燵に入りけるが、遂《つひ》に櫓
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