の眼色《まなざし》は漸《やうや》く鋭く、かつは疑ひかつは怪むらんやうに、忍びては矚《まも》りつつ便無《びんな》げに佇《たたず》みけるに、いでや長居は無益《むやく》とばかり、彼は蹌踉《よろよろ》と踏出《ふみいだ》せり。
婦人はとにもかくにも遣過《やりすご》せしが、又何とか思直《おもひなほ》しけん、遽《にはか》に追行きて呼止めたり。頭《かしら》を捻向《ねぢむ》けたる酔客は※[#「※」は「目+毛」、291−16]《くも》れる眼《まなこ》を屹《き》と見据ゑて、自《われ》か他《ひと》かと訝《いぶか》しさに言《ことば》も出《いだ》さず。
「もしお人違《ひとちがひ》でございましたら御免あそばしまして。貴方《あなた》は、あの、もしや荒尾さんではゐらつしやいませんですか」
「は?」彼は覚えず身を回《かへ》して、丁《ちよう》と立てたる鉄鞭に仗《よ》り、こは是《これ》白日の夢か、空華《くうげ》の形か、正体見んと為れど、酔眼の空《むなし》く張るのみにて、益《ますま》す霽《は》れざるは疑《うたがひ》なり。
「荒尾さんでゐらつしやいましたか!」
「はあ? 荒尾です、私《わたくし》荒尾です」
「あの間《はざま》貫
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