る右の高頬《たかほ》を平手に掩《おほ》ひつつ寄来《よりく》る婦人を打見遣《うちみや》りつ。彼はその前に先《ま》づ懦《わるび》れず会釈して、
「どうも取んだ麁相《そそう》を致しまして、何とも相済みませんでございます。おや、お顔を! お目を打《ぶ》ちましたか、まあどうも……」
「いや太《たい》した事は無いのです」
「さやうでございますか。何処《どこ》ぞお痛め遊ばしましたでございませう」
腰を得立てずゐるを、婦人はなほ気遣《きづか》へるなり。
車夫は数次《あまたたび》腰《こし》を屈《かが》めて主人の後方《うしろ》より進出《すすみい》でけるが、
「どうも、旦那《だんな》、誠に申訳もございません、どうか、まあ平《ひら》に御勘弁を願ひます」
眼《まなこ》を其方《そなた》に転じたる酔客は恚《いか》れるとしもなけれど声粛《こゑおごそか》に、
「貴様は善くないぞ。麁相《そそう》を為たと思うたら何為《なぜ》車を駐《と》めん。逃げやうとするから呼止めたんじや。貴様の不心得から主人にも恥を掻《かか》する」
「へい恐入りました」
「どうぞ御勘弁あそばしまして」
俥《くるま》の主の身を下《くだ》して辞《こ
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