》か、酔生児《のんだくれ》か、と異《あやし》き姿を見て過《すぐ》る有れば、面《おもて》を識らんと窺《うかが》ふ有り、又はその身の上など思ひつつ行くも有り。彼は太《いた》く酔《ゑ》へれば総《すべ》て知らず、町の殷賑《にぎはひ》を眺《なが》め遣《や》りて、何方《いづれ》を指して行かんとも心定らず姑《しばら》く立てるなりけり。
 さばかり人に怪《あやし》まるれど、彼は今日のみこの町に姿を顕《あらは》したるにあらず、折々散歩すらんやうに出来《いでく》ることあれど、箇様《かよう》の酔態を認むるは、兼て注目せる派出所の巡査も希《めづら》しと思へるなり。
 やがて彼は鉄鞭《てつべん》を曳鳴《ひきなら》して大路を右に出でしが、二町ばかりも行きて、乾《いぬゐ》の方《かた》より狭き坂道の開きたる角《かど》に来にける途端《とたん》に、風を帯びて馳下《はせくだ》りたる俥《くるま》は、生憎《あいにく》其方《そなた》に※[#「※」は「足+禹」、289−7]《よろめ》ける酔客《すいかく》の※[#「※」は「月+(賺−貝)」、289−7]《よわごし》の辺《あたり》を一衝撞《ひとあてあ》てたりければ、彼は郤含《はずみ》を
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