悲《かなしみ》の図を描成《ゑがきな》せり。
かくて暫《しばら》く有りし後、直道は卒然|言《ことば》を出《いだ》せり。
「貴方、真人間に成つてくれませんか」
その声音《こわね》の可愁《うれはし》き底には情《なさけ》も籠《こも》れりと聞えぬ。貫一は粗《ほぼ》彼の意を暁《さと》れり。
「はい、難有《ありがた》うございます」
「どうですか」
「折角のお言《ことば》ではございますが、私《わたくし》はどうぞこのままにお措《お》き下さいまし」
「それは何為《なぜ》ですか」
「今更真人間に復《かへ》る必要も無いのです」
「さあ、必要は有りますまい。私も必要から貴方にお勧めするのではない。もう一度考へてから挨拶《あいさつ》をして下さいな」
「いや、お気に障《さは》りましたらお赦《ゆる》し下さいまし。貴方とは従来《これまで》浸々《しみじみ》お話を致した事もございませんで私といふ者はどんな人物であるか、御承知はございますまい。私の方では毎々お噂《うはさ》を伺つて、能《よ》く貴方を存じてをります。極潔《ごくきよ》いお方なので、精神的に傷《きずつ》いたところの無い御人物、さう云ふ方に対して我々などの心事を申
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