ほざ》けたりしなり。故は、彼こそ父が不善の助手なれと、始より畜生視して、得べくば撲《う》つて殺さんとも念ずるなりければ、今彼が言《ことば》の端々《はしはし》に人がましき響あるを聞きて、いと異《あや》しと思へり。
「それでは、貴方真人間に成損《なりそこな》つたとお言ひのですな」
「さうでございます」
「さうすると、今は真人間ではないと謂ふ訳ですか」
「勿論《もちろん》でございます」
直道は俯《うつむ》きて言はざりき。
「いや貴方のやうな方に向つてこんな太腐《ふてくさ》れた事を申しては済みません。さあ、参りませうか」
彼はなほ俯《うつむ》き、なほ言はずして、頷《うなづ》くのみ。
夜は太《いた》く更《ふ》けにければ、さらでだに音を絶《た》てる寂静《しづかさ》はここに澄徹《すみわた》りて、深くも物を思入る苦しさに直道が蹂躙《ふみにじ》る靴の下に、瓦の脆《もろ》く割《わ》るるが鋭く響きぬ。地は荒れ、物は毀《こぼた》れたる中に一箇《ひとり》は立ち、一箇《ひとり》は偃《いこ》ひて、言《ことば》あらぬ姿の佗《わび》しげなるに照すとも無き月影の隠々と映添《さしそ》ひたる、既に彷彿《ほうふつ》として
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