が可いです。貴方《あなた》一箇《ひとり》のお心持で御両親は御満足なさるのですから。こんな事を申上げては実に失礼ですけれども、貴方が今日《こんにち》まで御両親をお持ちになつてゐられたのは、私《わたくし》などの身から見ると何よりお可羨《うらやまし》いので、この世の中に親子の情愛ぐらゐ詐《いつはり》の無いものは決して御座いませんな、私は十五の歳《とし》から孤児《みなしご》になりましたのですが、それは、親が附いてをらんと見縊《みくび》られます。余り見縊られたのが自棄《やけ》の本《もと》で、遂《つひ》に私も真人間に成損《なりそこな》つて了つたやうな訳で。固《もと》より己《おのれ》の至らん罪ではありますけれど、抑《そもそ》も親の附いてをらんかつたのが非常な不仕合《ふしあはせ》で、そんな薄命な者もかうして在るのですから、それはもう幾歳《いくつ》になつたから親に別れて可いと謂《い》ふ理窟《りくつ》はありませんけれど、聊《いささ》か慰むるに足ると、まあ、思召《おぼしめ》さなければなりません」
貫一のこの人に向ひて親く物言ふ今夜の如き例《ためし》はあらず、彼の物言はずとよりは、この人の悪《にく》み遠《と
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