は、彼は他の憚られ、畏れられざる子よりも多く愛を被《かうむ》りき。生きてこそ争ひし父よ。亡くての今は、その聴《きか》れざりし恨より、親として事《つか》へざりし不孝の悔は直道の心を責むるなり。
生暖《なまあたたか》き風は急に来《きた》りてその外套《がいとう》の翼を吹捲《ふきまく》りぬ。こはここに失せし母の賜ひしを、と端無《はしな》く彼は憶起《おもひおこ》して、さばかりは有《あり》のすさびに徳とも為ざりけるが、世間に量り知られぬ人の数の中に、誰か故無くして一紙《いつし》を与ふる者ぞ、我は今|聘《へい》せられし測量地より帰来《かへりきた》れるなり。この学術とこの位置とを与へて恩と為ざりしは誰なるべき。外にこれを求むる能はず、重ねてこれを得べからざる父と母とは、相携へて杳《はるか》に迢《はるか》に隔つる世の人となりぬ。
炎々たる猛火の裏《うち》に、その父と母とは苦《くるし》み悶《もだ》えて援《たすけ》を呼びけんは幾許《いかばかり》ぞ。彼等は果して誰をか呼びつらん。思ここに到りて、直道が哀咽《あいえつ》は渾身《こんしん》をして涙に化し了《をは》らしめんとするなり。
「喜ぶなら世間の奴は喜んだ
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