ゐるのですか」
「貨《かね》も少しは在りませうが、帳簿、証書の類が主《おも》でございます」
「貸金に関した?」
「さやうで」
「ええ、それが焼きたかつたのに!」
口惜《くちを》しとの色は絶《したた》かその面《おもて》に上《のぼ》れり。貫一は彼が意見の父と相容《あひい》れずして、年来《としごろ》別居せる内情を詳《つまびら》かに知れば、迫《せ》めてその喜ぶべきをも、却《かへ》つてかく憂《うれひ》と為《な》す故《ゆゑ》を暁《さと》れるなり。
「家の焼けたの、土蔵の落ちたのは差支無《さしつかへな》いのです。寧《むし》ろ焼いて了はんければ成らんのでしたから、それは結構です。両親の歿《なくな》つたのも、私《わたくし》であれ、貴方であれ、かうして泣いて悲む者は、ここに居る二人きりで、世間に誰一人……さぞ衆《みんな》が喜んでゐるだらうと思ふと、唯親を喪《なくな》したのが情無《なさけな》いばかりではないのですよ」
されども堰《せき》敢《あ》へず流るるは恩愛の涙なり。彼を憚《はばか》りし父と彼を畏《おそ》れし母とは、決して共に子として彼を慈《いつくし》むを忘れざりけり。その憚られ、畏れられし点を除きて
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