、貴方《あなた》は! お帰来《かへり》でしたか」
その人は待ちに待たれし直道なり。貫一は忙《いそがはし》く出迎へぬ。向ひて立てる両箇《ふたり》は月明《つきあかり》に面《おもて》を見合ひけるが、各《おのおの》口吃《くちきつ》して卒《にはか》に言ふ能はざるなりき。
「何とも不慮な事で、申上げやうもございません」
「はい。この度《たび》は留守中と云ひ、別してお世話になりました」
「私《わたくし》は事の起りました晩は未《ま》だ病院に居りまして、かう云ふ事とは一向存じませんで、夜明になつて漸《やうや》く駈着《かけつ》けたやうな始末、今更申したところが愚痴に過ぎんのですけれど、私が居りましたらまさかこんな事にはお為せ申さんかつたと、実に残念でなりません。又お二人にしても余り不覚な、それしきの事に狼狽《ろうばい》される方ではなかつたに、これまでの御寿命であつたか、残多《のこりおほ》い事を致しました」
直道は塞《ふさ》ぎし眼《まなこ》を怠《たゆ》げに開きて、
「何もかも皆焼けましたらうな」
「唯|一品《ひとしな》、金庫が助りました外には、すつかり焼いて了ひました」
「金庫が残りました? 何が入つて
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