入れば、噴出《ふきい》づる黒烟《くろけふり》の渦は或《あるひ》は頽《くづ》れ、或は畳みて、その外を引※[#「※」は「韋+(榲−木)」、273−6]《ひきつつ》むとともに、見え遍《わた》りし家も土蔵も堆《うづたか》き黯※[#「※」は「(黯−音)+甚」、273−6]《あんたん》の底に没して、闇は焔に破られ、焔は烟《けふり》に揉立《もみた》てられ、烟《けむり》は更に風の為に砕かれつつも、蒸出す勢の夥《おびただし》ければ、猶ほ所狭《ところせ》く漲《みなぎ》りて、文目《あやめ》も分かず攪乱《かきみだ》れたる中より爆然と鳴りて、天も焦げよと納屋は一面の猛火と変じてけり。かの了然《さだか》ならざりし形はこの時|明《あきらか》に輝かされぬ。宵に来《く》べかりし狂女の佇《たたず》めるなり。躍《をど》り狂ふ烟の下に自若として、面《おもて》も爛《ただ》れんとすばかりに照されたる姿は、この災を司る鬼女などの現れ出でにけるかと疑はしむ。実《げ》に彼は火の如何《いか》に焚《も》え、如何に燬《や》くや、と厳《おごそか》に監《み》るが如く眥《まなじり》を裂きて、その立てる処を一歩も移さず、風と烟と焔《ほのほ》との相雑
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