々|凝《こ》れる寒《さむさ》は殆《ほとん》ど有らん限の生気を吸尽して、さらぬだに陰森たる夜色は益《ますま》す冥《くら》く、益す凄《すさまじ》からんとす。忽《たちま》ちこの黒暗々を劈《つんざ》きて、鰐淵が裏木戸の辺《あたり》に一道《いちどう》の光は揚りぬ。低く発《おこ》りて物に遮《さへぎ》られたれば、何の火とも弁《わきま》へ難くて、その迸発《ほとばしり》の朱《あか》く烟《けむ》れる中に、母家《もや》と土蔵との影は朧《おぼろ》に顕《あらは》るるともなく奪はれて、瞬《またた》くばかりに消失せしは、風の強きに吹敷れたるなり。やや有りて、同じほどの火影の又|映《うつろ》ふと見れば、早くも薄れ行きて、こたびは燃えも揚らず、消えも遣らで、少時《しばし》明《あかり》を保ちたりしが、風の僅《わづか》の絶間を偸《ぬす》みて、閃々《ひらひら》と納屋《なや》の板戸を伝ひ、始めて騰《のぼ》れる焔《ほのほ》は炳然《へいぜん》として四辺《あたり》を照せり。塀際《へいぎは》に添ひて人の形《かたち》動くと見えしが、なほ暗くて了然《さだか》ならず。
 数息《すそく》の間にして火の手は縦横に蔓《はびこ》りつつ、納屋の内に乱
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