きませう。御酒《ごしゆ》もお美《いし》いものですね。なあにあの婆さんが唯怖《ただこは》いのぢやありませんよ。それは気味《きび》は悪うございますけれどもさ、怖いより、気味が悪いより、何と無く凄《すご》くて耐《たま》らないのです。あれが来ると、悚然《ぞつ》と、惣毛竪《そうけだ》つて体《からだ》が竦《すく》むのですもの、唯の怖いとは違ひますわね。それが、何だか、かう執着《とつつか》れでもするやうな気がして、あの、それ、能《よ》く夢で可恐《おそろし》い奴なんぞに追懸《おつか》けられると、迯《に》げるには迯げられず、声を出さうとしても出ないので、どうなる事かと思ふ事がありませう、とんとあんなやうな心持なんで。ああ、もうそんな話は止しませう。私は少し酔ひました」
 銚子を更《か》へて婢《をんな》の持来《もちきた》れば、
「金《きん》や、今晩は到頭来ないね、気違さんさ」
「好い塩梅《あんばい》でございます」
「お前には後でお菓子を御褒美《ごほうび》に出すからね。貴方《あなた》、これはあの気違さんとこの頃懇意になつて了ひましてね。気違の取次は金に限るのです」
「あら可厭《いや》なことを有仰《おつしや》
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