へて直行は格子《こうし》の外へ※[#「※」は「てへん+雙」、266−9]《おしだ》さんと為たり。彼は推《おさ》れながら格子に縋《すが》りて差理無理《しやりむり》争ひ、
「ええ、おのれは他《ひと》をこの崖《がけ》から突落す気だな。この老婦《としより》を騙討《だましうち》に為るのだな」
喚《わめ》きつつ身を捻返《ねぢかへ》して、突掛けし力の怪き強さに、直行は踏辷《ふみすべ》らして尻居に倒るれば、彼は囃《はや》し立てて笑ふなり。忽《たちま》ち起上りし直行は彼の衿上《えりがみ》を掻掴《かいつか》みて、力まかせに外方《とのかた》へ突遣《つきや》り、手早く雨戸を引かんとせしに、軋《きし》みて動かざる間《ひま》に又|駈戻《かけもど》りて、狂女はその凄《すさまし》き顔を戸口に顕《あら》はせり。余りの可恐《おそろ》しさに直行は吾を忘れてその顔をはたと撲《う》ち、痿《ひる》むところを得たりと鎖《とざ》せば、外より割るるばかりに戸を叩きて、
「さあ、首を渡せ。大事な証文も取上げて了つたな、大事な靴も取つたな。靴盗坊《くつどろぼう》、大騙《おほかたり》! 首を寄来《よこ》せ」
直行は佇《たたず》みて様子を
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