識らざりしより、その間の調停成らずして、彼の行為は終《つひ》に第二百十条の問ふところとなりぬ。
 法律は鉄腕の如く雅之を拉《らつ》し去りて、剰《あまつ》さへ杖《つゑ》に離れ、涙に蹌《よろぼ》ふ老母をば道の傍《かたはら》に※[#「※」は「足+易」、265−8]返《けかへ》して顧ざりけり。噫《ああ》、母は幾許《いかばかり》この子に思を繋《か》けたりけるよ。親に仕《つか》へて、此上無《こよな》う優かりしを、柏井《かしわい》の鈴《すず》とて美き娘をも見立てて、この秋には妻《めあは》すべかりしを、又この歳暮《くれ》には援《ひ》く方《かた》有りて、新に興るべき鉄道会社に好地位を得んと頼めしを、事は皆|休《や》みぬ、彼は人の歯《よはひ》せざる国法の罪人となり了《をは》れり。耻辱《ちじよく》、憤恨、悲歎、憂愁、心を置惑ひてこの母は終に発狂せるなり。
 無益《むやく》に言《ことば》を用ゐんより、唯手柔《ただてやはらか》に撮《つま》み出すに如《し》かじと、直行は少しも逆《さから》はずして、
「ああ宜《よろし》いが。この首が欲いか、遣らうとも遣らうとも、ここでは可かんから外《おもて》へ行かう。さあ一処に来た
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