に為るやうに十分運動したまへ。十年も一所に居てから、今更人に奪《と》られるやうな事があつたら、独《ひと》り間貫一|一《いつ》個人の恥辱ばかりではない、我々|朋友《ほうゆう》全体の面目にも関する事だ。我々朋友ばかりではない、延《ひ》いて高等中学の名折《なをれ》にもなるのだから、是非あの美人を君が妻君にするやうに、これは我々が心を一《いつ》にして結《むすぶ》の神に祷《いの》つた酒だから、辞退するのは礼ではない。受けなかつたら却《かへ》つて神罰が有ると、弄謔《からかひ》とは知れてゐるけれど、言草《いひぐさ》が面白かつたから、片端《かたつぱし》から引受けて呷々《ぐひぐひ》遣付《やつつ》けた。
宮さんと夫婦に成れなかつたら、はははははは高等中学の名折になるのだと。恐入つたものだ。何分|宜《よろし》く願ひます」
「可厭《いや》よ、もう貫一さんは」
「友達中にもさう知れて見ると、立派に夫婦にならなければ、弥《いよい》よ僕の男が立たない義《わけ》だ」
「もう極《きま》つてゐるものを、今更……」
「さうでないです。この頃|翁《をぢ》さんや姨《をば》さんの様子を見るのに、どうも僕は……」
「そんな事は決
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