討つから立合ひなさい」
 直行は舌を吐きて独語《ひとりご》ちぬ。
「あ、いよいよ気違じやわい」
 見る見る老女の怒《いかり》は激して、形相《ぎようそう》漸くおどろおどろしく、物怪《もののけ》などの※[#「※」は「馮/几」、263−5]《つ》いたるやうに、一挙一動も全くその人ならず、足を踏鳴し踏鳴し、白歯の疎《まばら》なるを牙《きば》の如く露《あらは》して、一念の凝《こ》れる眸《まなじり》は直行の外《ほか》を見ず、
「歿《なくな》られた良人《つれあひ》から懇々《くれぐれ》も頼まれた秘蔵の秘蔵の一人子《ひとりつこ》、それを瞞しておのれが懲役に遣つたのだ。此方《このほう》を女と侮《あなど》つてさやうな不埒《ふらち》を致したか。長刀《なぎなた》の一手も心得てゐるぞよ。恐入つたか」
 彼は忽《たちま》ちさも心地快《ここちよ》げに笑へり。
「さうあらうとも、赦《ゆる》します。内には鈴《すう》ちやんが今日を曠《はれ》と着飾つて、その美しさと謂ふものは! ほんにまああんな縹致《きりよう》と云ひ、気立と云ひ、諸芸も出来れば、読《よみ》、書《かき》、針仕事《はりしごと》、そんなことは言つてゐるところではな
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