さめざめ》と泣出《なきいだ》せり。呆《あき》れ果てたる直行は金壺眼《かなつぼまなこ》を凝《こら》してその泣くを眺むる外はあらざりけり。
彼は泣きて泣きて止まず。
「解らんな! 一体どう云ふんか、ああ、私《わし》に用と云ふのは?」
朽木の自《おのづか》ら頽《くづ》れ行くらんやうにも打萎《うちしを》れて見えし老女は、猛然《もうねん》として振仰ぎ、血声を搾《しぼ》りて、
「この大騙《おほかたり》め!」
「何ぢやと!」
「大、大悪人! おのれのやうな奴が懲役に行かずに、内の……内の……雅之《まさゆき》のやうな孝行者が……先祖を尋ぬれば、甲斐国《かいのくに》の住人|武田大膳太夫《たけだだいぜんだゆう》信玄入道《しんげんにゆうどう》、田夫野人《でんぷやじん》の為に欺かれて、このまま断絶する家へ誰が嫁に来る。柏井《かしわい》の鈴《すう》ちやんがお嫁に来てくれれば、私《わたし》の仕合は言ふまでもない、雅之もどんなにか嬉からう。子を捨てる藪《やぶ》は有つても、懲役に遣る親は無いぞ。二十七にはなつても世間|不見《みず》のあの雅之、能《よ》うも能うもおのれは瞞《だま》したな! さあ、さあさ讐《かたき》を
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