《ことば》を尽せるにも理《ことわり》聞えて、無下《むげ》に打《うち》も棄てられず、されども貫一が唯涙を流して一語を出《いだ》さず、いと善く識るらん人をば覚無しと言へる、これにもなかなか所謂《いはれ》はあらんと推測《おしはから》るれば、一も二も無く満枝は恋人に与《くみ》してこの場の急を拯《すく》はんと思へるなり。
 枕頭《まくらもと》を窺《うかが》ひつつ危む如く眉を攅《あつ》めて、鴫沢の未《いま》だ言出でざる時、
「私《わたくし》看病に参つてをります者でございますが、何方様《どなたさま》でゐらつしやいますか存じませんが、この一両日《いちりようにち》病人は熱の気味で始終|昏々《うとうと》いたして、時々|譫語《うはごと》のやうな事を申して、泣いたり、慍《おこ》つたり致すのでございますが、……」
 頭を捻向《ねぢむ》けて満枝に対せる鴫沢の顔の色は、この時|故《ことさら》に解きたりと見えぬ。
「はあ、は、さやうですかな」
「先程から伺ひますれば、年来御懇意でゐらつしやるのを人違だとか申して、大相失礼を致してをるやうでございますが、やつぱり熱の加減で前後が解りませんのでございますから、どうぞお気に
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