を為《せ》んのだから、お前さんは縁を切つた気であらうが、私の方では未だ縁は切らんのだ。
 私は考へる、たとへばこの鴫沢の翁《をぢ》の為た事が不都合であらうか知れん、けれども間貫一たる者は唯一度の不都合ぐらゐは如何《いか》にも我慢をしてくれんければ成るまいかと思ふのだ。又その我慢が成らんならば、も少し妥当《おだやか》に事を為てもらひたかつた。私の方に言分のあると謂ふのは其処《そこ》だ。言はせればその通り私にも言分はある。然し、そんな事を言ひに来たではない、私の方にも如何様《いかさま》手落があつたで、その詫《わび》も言はうし、又昔も今も此方《こちら》には心持に異変《かはり》は無いのだから、それが第一に知らせたい。翁が久しぶりで来たのだ、のう、貫一さん、今日《こんにち》は何も言はずに清う会うてくれ」
 曾《かつ》て聞かざりし恋人が身の上の秘密よ、と満枝は奇《あやし》き興を覚えて耳を傾けぬ。
 我強《がづよ》くも貫一のなほ言《ものい》はんとはせざるに、漸《やうや》く怺《こら》へかねたる鴫沢の翁はやにはに椅子を起ちて、強《し》ひてもその顔見んと歩み寄れり。事の由は知るべきやう無けれど、この客の言
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