に縋《すが》りて遂《つひ》に放さざりければ、宮はその身一つさへ危《あやふ》きに、やうやう扶《たす》けて書斎に入《い》りぬ。
※[#「※」は「ころもへん+因」、29−7]《しとね》の上に舁下《かきおろ》されし貫一は頽《くづ》るる体《たい》を机に支へて、打仰《うちあふ》ぎつつ微吟せり。
「君に勧む、金縷《きんる》の衣《ころも》を惜むなかれ。君に勧む、須《すべから》く少年の時を惜むべし。花有り折るに堪《た》へなば直《ただち》に折る須《べ》し。花無きを待つて空《むなし》く枝を折ることなかれ」
「貫一さん、どうしてそんなに酔つたの?」
「酔つてゐるでせう、僕は。ねえ、宮《みい》さん、非常に酔つてゐるでせう」
「酔つてゐるわ。苦《くるし》いでせう」
「然矣《しかり》、苦いほど酔つてゐる。こんなに酔つてゐるに就《つ》いては大《おほ》いに訳が有るのだ。さうして又宮さんなるものが大いに介抱して可い訳が有るのだ。宮さん!」
「可厭《いや》よ、私は、そんなに酔つてゐちや。不断|嫌《きら》ひの癖に何故《なぜ》そんなに飲んだの。誰に飲《のま》されたの。端山《はやま》さんだの、荒尾さんだの、白瀬さんだのが附いて
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