豆《こいあづき》の更紗縮緬《さらさちりめん》、紫根七糸《しこんしちん》に楽器尽《がつきつくし》の昼夜帯して、半襟《はんえり》は色糸の縫《ぬひ》ある肉色なるが、頸《えり》の白きを匂《にほ》はすやうにて、化粧などもやや濃く、例の腕環のみは燦爛《きらきら》と煩《うるさ》し。今日は殊《こと》に推《お》して来にけるを、得堪《えた》へず心の尤《とが》むらん風情《ふぜい》にて佇《たたず》める姿《すがた》限無《かぎりな》く嬌《なまめ》きて見ゆ。
「お寝《やすみ》のところを飛んだ失礼を致しました。私《わたくし》上《あが》る筈《はず》ではないのでございますけれど、是非申上げなければなりません事がございますので、些《ちよつ》と伺ひましたのでございますから、今日《こんにち》のところはどうか御堪忍《ごかんにん》あそばして」
彼の許《ゆるし》を得んまでは席に着くをだに憚《はばか》る如く、満枝は漂《ただよは》しげになほ立てるなり。
「はあ、さやうですか。一昨々日あれ程申上げたのに……」
内に燃ゆる憤《いかり》を抑《おさ》ふるとともに貫一の言《ことば》は絶えぬ。
「鰐淵さんの事なのでございますの。私困りまして、ど
前へ
次へ
全708ページ中354ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング