+句」、245−14]《つ》いたりしが、やがて為《せ》ん方無げに枕《まくら》に就きてよりは、見るべき物もあらぬ方《かた》に、止《た》だ果無《はてしな》く目を奪れゐたり。

     第 五 章

 檜葉《ひば》、樅《もみ》などの古葉貧しげなるを望むべき窓の外に、庭ともあらず打荒れたる広場は、唯|麗《うららか》なる日影のみぞ饒《ゆたか》に置余《おきあま》して、そこらの梅の点々《ぼちぼち》と咲初めたるも、自《おのづか》ら怠り勝に風情《ふぜい》作らずと見ゆれど、春の色香《いろか》に出《い》でたるは憐《あはれ》むべく、打霞《うちかす》める空に来馴《きな》るる鵯《ひよ》のいとどしく鳴頻《なきしき》りて、午後二時を過ぎぬる院内の寂々《せきせき》たるに、たまたま響くは患者の廊下を緩《ゆる》う行くなり。
 枕の上の徒然《つれづれ》は、この時人を圧して殆《ほとん》ど重きを覚えしめんとす。書見せると見えし貫一は辛《から》うじて夢を結びゐたり。彼は実《げ》に夢ならでは有得べからざる怪《あやし》き夢に弄《もてあそ》ばれて、躬《みづから》も夢と知り、夢と覚さんとしつつ、なほ睡《ねむり》の中に囚《とらは》れしを、
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