も無くて独《ひと》り耀《かがや》けり。
「それでは私もうお暇《いとま》を致します」
「ほう、もう、お帰去《かへり》かな。私《わし》もはや行かん成らんで、其所《そこ》まで御一処に」
「いえ、私|些《ちよつ》と、あの、西黒門町《にしくろもんちよう》へ寄りますでございますから、甚《はなは》だ失礼でございますが……」
「まあ、宜《よろし》い。其処《そこ》まで」
「いえ、本当に今日《こんにち》は……」
「まあ、宜いが、実は、何じや、あの旭座《あさひざ》の株式一件な、あれがつい纏《まとま》りさうぢやで、この際お打合《うちあはせ》をして置かんと、『琴吹《ことぶき》』の収債《とりたて》が面白うない。お目に掛つたのが幸《さいはひ》ぢやから、些《ちよつ》とそのお話を」
「では、明日《みようにち》にでも又、今日は些《ち》と急ぎますでございますから」
「そんなに急にお急ぎにならんでも宜いがな。商売上には年寄も若い者も無い、さう嫌はれてはどうもならん」
姑《しばら》く推《おし》問答の末彼は終《つひ》に満枝を拉《らつ》し去れり。迹《あと》に貫一は悪夢の覚めたる如く連《しきり》に太息《ためいき》※[#「※」は「口
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