に好くと申す訳には参りませんでございます。いくら此方《こつち》から好きましても、他《さき》で嫌はれましては、何の効《かひ》もございませんわ」
「さやう、な。けど、貴方《あんた》のやうな方が此方《こつち》から好いたと言うたら、どんな者でも可厭《いや》言ふ者は、そりや無い」
「あんな事を有仰《おつしや》つて! 如何《いかが》でございますか、私そんな覚はございませんから、一向存じませんでございます」
「さやうかな。はッはッ。さやうかな。はッはッはッ」
 椅子も傾くばかりに身を反《そら》して、彼はわざとらしく揺上《ゆりあ》げ揺上げて笑ひたりしが、
「間、どうぢやらう。赤樫さんはああ言うてをらるるが、さうかの」
「如何《いかが》ですか、さう云ふ事は」
 誰《たれ》か烏《からす》の雌雄《しゆう》を知らんとやうに、貫一は冷然として嘯《うそぶ》けり。
「お前も知らんかな、はッはッはッはッ」
「私が自分にさへ存じませんものを、間さんが御承知有らう筈《はず》はございませんわ。ほほほほほほほほ」
 そのわざとらしさは彼にも遜《ゆづ》らじとばかり、満枝は笑ひ囃《はや》せり。
 直行が眼《まなこ》は誰を見るとし
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