れれば、宛然《さながら》爼板《まないた》に上れる魚《うを》の如く、空《むなし》く他の為すに委《まか》するのみなる仕合《しあはせ》を、掻※[#「※」は「てへん+劣」、234−7]《かきむし》らんとばかりに悶《もだ》ゆるなり。
 かかる苦《くるし》き枕頭《まくらもと》に彼は又驚くべき事実を見出《みいだ》しつつ、飜《ひるが》へつて己を顧れば、測らざる累の既に逮《およ》べる迷惑は、その藁蒲団《わらぶとん》の内に針《はり》の包れたる心地して、今なほ彼の病むと謂はば、恐くは外に三分《さんぶ》を患《わづら》ひて、内に却《かへ》つて七分《しちぶ》を憂ふるにあらざらんや。貫一もそれをこそ懸念《けねん》せしが、果して鰐淵《わにぶち》は彼と満枝との間を疑ひ初めき。彼は又鰐淵の疑へるに由りて、その人と満枝との間をも略《ほぼ》推《すい》し得たるなり。
 例の煩《わづらし》き人は今日も訪《と》ひ来《き》つ、しかも仇《あだ》ならず意《こころ》を籠《こ》めたりと覚《おぼし》き見舞物など持ちて。はや一時間余を過せども、彼は枕頭に起ちつ、居つして、なかなか帰り行くべくも見えず。貫一は寄付《よせつ》けじとやうに彼方《あなた
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