にくいろがのこ》を掛けたる大円髷《おほまるわげ》より水は滴《た》るばかりに、玉の如き喉《のど》を白絹のハンカチイフに巻きて、風邪気《かぜけ》などにや、連《しきり》に打咳《うちしはぶ》きつつ、宮は奥より出迎に見えぬ。その故《ゆゑ》とも覚えず余《あまり》に著《しる》き面羸《おもやつれ》は、唯一目に母が心を驚《おどろか》せり。
閑《ひま》ある身なれば、宮は月々|生家《さと》なる両親を見舞ひ、母も同じほど訪《と》ひ音づるるをば、此上無《こよな》き隠居の保養と為るなり。信《まこと》に女親の心は、娘の身の定りて、その家栄え、その身安泰に、しかもいみじう出世したる姿を見るに増して楽まさるる事はあらざらん。彼は宮を見る毎に大《おほい》なる手柄をも成したらんやうに吾が識《し》れるほどの親といふ親は、皆才覚無く、仕合《しあはせ》薄くて、有様《ありよう》は気の毒なる人達|哉《かな》、と漫《そぞろ》に己の誇らるるなりけり。されば月毎に彼が富山の門《かど》を入るは、正《まさ》に人の母たる成功の凱旋門《がいせんもん》を過《すぐ》る心地もすなるべし。
可懐《なつかし》きと、嬉きと、猶《なほ》今一つとにて、母は得
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