ひ、それは※[#「※」は「りっしんべん+(篋−竹)」、212−5]《かな》はずなりてより、せめて一筆《ひとふで》の便《たより》聞かずばと更に念ひしに、事は心と渾《すべ》て違《たが》ひて、さしも願はぬ一事《いちじ》のみは玉を転ずらんやうに何等の障《さはり》も無く捗取《はかど》りて、彼が空《むなし》く貫一の便《たより》を望みし一日にも似ず、三月三日は忽《たちま》ち頭《かしら》の上に跳《をど》り来《きた》れるなりき。彼は終《つひ》に心を許し肌身《はだみ》を許せし初恋《はつごひ》を擲《なげう》ちて、絶痛絶苦の悶々《もんもん》の中《うち》に一生最も楽《たのし》かるべき大礼を挙げ畢《をは》んぬ。
 宮は実に貫一に別れてより、始めて己《おのれ》の如何《いか》ばかり彼に恋せしかを知りけるなり。
 彼の出《い》でて帰らざる恋しさに堪《た》へかねたる夕《ゆふべ》、宮はその机に倚《よ》りて思ひ、その衣《きぬ》の人香《ひとか》を嗅《か》ぎて悶《もだ》え、その写真に頬摩《ほほずり》して憧《あくが》れ、彼|若《も》し己《おのれ》を容《い》れて、ここに優き便《たより》をだに聞《きか》せなば、親をも家をも振捨てて、直
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