《ただち》に彼に奔《はし》るべきものをと念へり。結納《ゆいのう》の交《かは》されし日も宮は富山唯継を夫《つま》と定めたる心はつゆ起らざりき。されど、己は終《つひ》にその家に適《ゆ》くべき身たるを忘れざりしなり。
ほとほと自らその緒《いとぐち》を索《もと》むる能《あた》はざるまでに宮は心を乱しぬ。彼は別れし後の貫一をばさばかり慕ひて止まざりしかど、過《あやまち》を改め、操《みさを》を守り、覚悟してその恋を全うせんとは計らざりけるよ。真《まこと》に彼の胸に恃《たの》める覚悟とてはあらざりき。恋|佗《わ》びつつも心を貫かんとにはあらず、由無き縁を組まんとしたるよと思ひつつも、強《し》ひて今更|否《いな》まんとするにもあらず、彼方《かなた》の恋《こひし》きを思ひ、こなたの富めるを愛《をし》み、自ら決するところ無く、為すところ無くして空《むなし》き迷《まよひ》に弄《もてあそ》ばれつつ、終に移すべからざる三月三日の来《きた》るに会へるなり。
この日よ、この夕《ゆふべ》よ、更《ふ》けて床盃《とこさかづき》のその期《ご》に※[#「※」は「しんにょう+台」、213−4]《およ》びても、怪《あやし》む
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