阿父《おとつ》さんが、大怪我を為《なす》つたと出てをつたので、早速お見舞に参つたのです」
 白髪《しらが》を交《まじ》へたる茶褐色《ちやかつしよく》の髪の頭《かしら》に置余るばかりなるを撫《な》でて、直行は、
「何新聞か知らんけれど、それは間の間違ぢやが。俺《おれ》ならそんな場合に出会うたて、唯々《おめおめ》打《うた》れちやをりやせん。何の先は二人でないかい、五人までは敵手《あひて》にしてくれるが」
 直道の隣に居たる母は密《ひそか》に彼のコオトの裾《すそ》を引きて、言《ことば》を返させじと心|着《づく》るなり。これが為に彼は少しく遅《ためら》ひぬ。
「本《ほん》にお前どうした、顔色《かほつき》が良うないが」
「さうですか。余り貴方《あなた》の事が心配になるからです」
「何じや?」
「阿父さん、度々《たびたび》言ふ事ですが、もう金貸は廃《や》めて下さいな」
「又! もう言ふな。言ふな。廃める時分には廃めるわ」
「廃めなければならんやうになつて廃めるのは見《みつ》ともない。今朝|貴方《あなた》が半死半生の怪我をしたといふ新聞を見た時、私《わたし》はどんなにしても早くこの家業をお廃めなさる
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