まに立てり。お峯は直道が言《ことば》に稜《かど》あらんことを慮《おもひはか》りて、さり気無く自ら代りて答へつ。
「もう少し先《さつき》でした。貴君《あなた》は大相お早かつたぢやありませんか、丁度|好《よ》ございましたこと。さうして間の容体はどんなですね」
「いや、仕合《しあはせ》と想うたよりは軽くての、まあ、ま、あの分なら心配は無いて」
黒一楽《くろいちらく》の三紋《みつもん》付けたる綿入羽織《わたいればおり》の衣紋《えもん》を直して、彼は機嫌《きげん》好く火鉢《ひばち》の傍《そば》に歩み寄る時、直道は漸《やうや》く面《おもて》を抗《あ》げて礼を作《な》せり。
「お前、どうした、ああ、妙な顔をしてをるでないか」
梭櫚《しゆろ》の毛を植ゑたりやとも見ゆる口髭《くちひげ》を掻拈《かいひね》りて、太短《ふとみじか》なる眉《まゆ》を顰《ひそ》むれば、聞ゐる妻は呀《はつ》とばかり、刃《やいば》を踏める心地も為めり。直道は屹《き》と振仰ぐとともに両手を胸に組合せて、居長高《ゐたけだか》になりけるが、父の面《おもて》を見し目を伏せて、さて徐《しづか》に口を開きぬ。
「今朝新聞を見ましたところが、
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